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ホロス                            ホロス通信
                            発行人:恒川洋  
            編集スタッフ:岡部明美 五十部富美子 田島亜矢子 高橋淳子
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目次

    

  インドの南に洋梨のような形をした小さな島国、スリランカがあります。スリランカと言うよりも、かつて英国の植民地であった頃の国名であるセイロンと言った方がピンと来るかもしれません。セイロンティと呼ばれる紅茶で有名な国です。

しかし、最近では民族紛争による爆弾テロ事件の多発する国と言ったイメージが強いかもしれません。実際、スリランカ北部ではタミール人のゲリラ組織とシンハリ人の政府軍との間で戦闘が続いており、南部の首都コロンポでも時々爆弾テロが発生しています。

この内戦の最大の被害者として数え切れないほど多くの子供たちの存在があります。両親や兄弟をテロリストに殺されて孤児となり、学校に行かないで町のあちこちで大人顔負けの商売や詐歎をしたりするストリートチルドレンが急増しています。この中には、貧困ゆえに両親が海外に出稼ぎに行ったために家族がいない子供たちも含まれています。

こうした不幸な子供たちを見捨てておくわけにはいかないと、スリランカ人僧侶、R.V.ラタナサーラさんが立上がり、その志の貴さに感動した日本の人々によってNGO組臓『オヴァ・ママの会(あなたと私という意味)』が4年前に誕生しました。

この会の基本目的は“内戦や貧困のために家族を失った孤児たちを援助し、将来よい人間として社会に送り出すこと"であり、まず子供たちが佳み、教育を受ける養護施設“チルドレンヴィレッジ''の建設が進められています。

今回、日本の『オヴァ・ママの会』(今飯田香盛代表)の岡部快晃事務局長の要請を受けて、養護施設の児童32人と施設のあるスリランカ南靖マータラの周辺住民を対象にした健康診断などの医療ボランティアをしてきました。

医療ボランティアチームは総勢15人で、医師は同会医療顧問の私を含め三名(内科、外科、眼科)、看護婦一名、視能検査士一名、保健体育の指導者一名の他、一般ボランティア九名からなっています。
住民健診は三百人程度に尿検、血圧測定、聴打診、目科検診をする予定で機材を準備していきました。

しかし、現地との事前の打ち合わせの不足からか、日本から医療団が来て診療してくれると言う誤った情報を聞いた有症状の地域住民が千人近くも早朝から殺到し、一時大混乱状態に陥りました。

従って、船戸崇史先生と私は一次健診でなく外来診察に切り替えざるを得ない状況になりました。また、眼科検診を担当された船戸博子先生は診察と同時に点眼治療もされたため、診察室の中まで押し掛けた患者さんに囲まれてさらに慌ただしく多忙な診療になりました。

長時間にわたる、通訳を介しての診察は日本での健診とは比較にならない位、手間ひまがかかりましたが、問診ひとつにも決して手抜きをされない船戸崇史先生の誠実な態度にも感銘しながら、無事終了いたしました。

この住民健診や個人的な医療相談をして分かった事は、スリランカでも田舎にあたるマータラにも生活習憤病(成人病)が決して少なくないこと、そして東洋医学とくにアーユルヴェーダ伝統医学の本場でありながら西洋医学に対する期待感が根強いことでした。

滞在中、私たち日本人の大半がスリランカの人が入れてくれた紅茶が甘すぎて飲めなかったのですが、大量の砂糖を使う食習慣と無縁ではないと思われる合併症を持った糖尿病患者の数の多さにぴっくりしました。

全身の痛み、とくに頭、肩、手足が痛いと訴える者が幼児から老人まで非常に多く、小さな子供までが頭痛を訴えるのには驚きました。この原因として素足で歩く習慣や労働環境の悪さなどが考えられますが、'子供の頭痛については皆目見当がつきませんでした。

次に、今日本では西洋医学の欠点を補うものとして東洋医学などの伝統医学が見直されつつありますが、西洋医学の普及がまだ十分ではないスリランカでは西洋医学に対する期待度が予想以上に高いようです。地域住民の症状には耳鼻科、整形外科、皮膚科領域のものが多かったので、専門医への受診を勧めると、この近くにはそんな医者はいない、コロンポならいるだろうがバスで五時間もかかるから無理だ、と言われ、スリランカの医療の現状の厳しさを垣間見る思いがしました。

また、がんの手術後のケアについてコロンボなどの都市にすむ人々から相談を受けました。スリランカにはMRI(核磁気共鳴診断装置)の数が少ないためか、全員からMRIによる検査の必要性について質問が出ました。

超音波検査やCT(コンピュータ断層撮影)でキチンと経過を追ってあれば十分と説明しても納得されず、中には自分は来月、MRIのあるインドの病院に検査入院して調べる予定だと言う実業家すらいました。
西洋医学の最新の医療機器への信仰にも似た期待感を持つスリランカの人々を見るにつけ、改めて日本の医療の問題点と共に長所や優秀な面も実感いたしました。

次に、今回のもう一つの重要な目的である擁養護施設の児童に対する健診とアートセラピー(芸術療法)が行われました。

児童たちは皮膚感染がひどく不潔だった入所時とは見違えるほどに清潔で元気であり、健診結果も良好でしたが、同年齢の子供たちに比べると全体的に小さい印象を受けました。この成長の遅れの原因として、低栄養の持続とともに心身へのストレスの影讐も否走できないと感じました。

また、多くの児童たちが家族をテロリストに殺されて間がないためか、昼間は元気に走り回っていても夜になると恐い夢を見て泣いたり、怖がって眠れない子供がいると聞きました。この精神的な後遺症を癒すためには、言葉を使わないでもコミュニケーションできるアートセラピーが最適と考えました。

そこで、阪神大震災による心的外傷後ストレス障害(PTSD)の子供たちに色や絵画を使ったカラーセラピーをされた色彩心理研究家の末永蒼生さんの協力を得て、塗り絵や自由に絵を書いてもらいました。
ほとんどの児童が実にカラフルな色遺いをしている一方で、色が塗り絵の伜からはみ出さすにキチンと塗られているものが多くみられました。自由奔放な感じのする明るい色を選びながら、枠の中にちゃんと納めて書いてあるという不自然さが気になりました。

自由画の題材としては花や象、海などが多かった中で、自分の失った家を描いた子供もおり、心の傷を見る思いがいたしました。現在、末永さんと一緒にこれらの絵の心理的な解析を進めています。
最後に、今回の貴重な体験を通じて感じたことは、まず第一に、医療関係者でない九名の一般ボランティアの方々の協力なくして、この医療奉仕活動は成し得なかったということです。

一般ボランティアの中には違う目的で参加された方々もおられたため、当初健診は医療関係者と現地の『オヴァ・ママの会』のスタッフで十分対応できる三百人程度を予定していました。

しかし、健診前日、団長を命ぜられた私の発案で、析角一緒に“チルドレンヴィレッジ''に行くのだから、どんな役割でもいいから全員でやりませんか、と呼びかけました。皆さん、快く賛同していただきましたものの、にわか仕立ての尿検係や血圧測定の補助係のため、実際のところは、どうなることかと内心心配していました。

さらに、健診会場に着くと前述しましたように千人近い住民が待ち構えており、現地スタッフとの意志疎通の悪さから犬混乱が起こってしまいました。こんな状況にもかかわらず、医療には全く素人のボランティアの方々は一生懸命にそれぞれの役割を果たして下さいました。特に同行した17才と19才の兄弟の学生さんの奮闘振りは、ボランティアの人達の間でも評判になりました。

健診前日には、この国にはあまり関心ないし、早く日本に帰りたいですよと消極的だった弟さんが、翌日には、スリランカに来てボランティア活動に参加できて本当に良かったと眼を輝かせて語るのを見て、安心すると同時に若い人が体験を通じて自ら学んでいく姿を、見せてもらった気がしました。

私たちの帰国を前にされたラタナサーラ師の謝辞の中に、今回の日本人ボランティアによる住民検診を受診したスリランカの入々の目から、日本の人達は皆親切で、医者にもよく話を聞いてもらえたことが何より嬉しかったと言う言葉が多く聞かれたとありました。

医者にかかる機会が少なく、まだまだ封建的で医者に対して満足に話すらできないという医療風土の中で、今回の医療ボランティアチームが微カながら成し得たことがあったとすれば、医療関係者だけでなく参加者全員が、それぞれ与えられた役割分担を誠心誠意、果たしたことではなかったかと思います。

   
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